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君は知っているか? 混沌を紡ぎ出すこの作文を……。 開催期間 : 11月17日(火)まで! 参加資格 : 陣営問わず どなたでもOK! ※ただし1人1アカウントでお願いします *遊び方* 1.発言者名を「混沌の語り部」にして共用アイコン(←左上のあれ)を設定します。 アイコンを右クリック→ギャラリーからストックしてください。 2.1投稿1000文字(1レス以内)でお話を書きます。 3.次の人が前の人の続きを書きます。連投はナシです。 4.どんどん続けて出来上がった混沌を楽しみます。 *その他ルール* ・もしも書き込みが被っていたら、後の人がその書き込みを消して下さい。 矛盾がなさそうならそのままでOK! ・AUC既存のキャラ、及び元ネタのあるキャラの登場などはNGです。 オリジナルの混沌を生み出しましょう! ・明るく楽しく、登場人物は死なせないように気をつけましょう! ・合言葉「混沌を楽しめ!」を忘れずに。 急展開・突飛な行動も笑って受け入れるべし! ・ただし「一方その頃○○は」論法でコロコロ場面を 切り替えるのはナシですよ! 混沌 を楽しみましょう!! *登場人物* 詳しくはキャラ掲示板へ アキラ カナコ ミケール 海原大地 犬頭の青年の友人 山田鉄雄 武者小路義豊 クローイヌ=キライ チワベロス ※明らかに不適切だなーと思った場合、管理者が削除する場合があります。 37期は以上のルールで開催しておりました。 |
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――時は夏。 この物語はアキラが道で眼鏡を拾ったことから始まった。 |
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アキラはいろんなモノを拾ってきた。 十円玉、一円玉、ボタン、しわくちゃの紙。 拾うたびに交番に届けた。 「どこで拾いましたか? 何月何日何時ごろですか? 拾得物の所有権は6カ月後に拾った人に移りますが権利を主張しますか?」 お巡りさんに聞かれることは暗記しているくらいだ。 もちろん、この眼鏡も交番に届けようと思った。 しかし、手続きにはそれなりに時間がかかる。 拾った日時さえ、はっきりしていれば、届けるのは時間があるときでも大丈夫だということもわかっていた。 アキラはメモ帳に拾った場所と日時を記入し、眼鏡は壊れないようにハンカチでくるんでカバンに入れた。 明日の午後、交番に眼鏡を届けるのを忘れないよう、スマホのスケジュールアプリに「交番」と予定を入れた。 |
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これでよし、とアキラは予定通り友人との待ち合わせの場所へ向かった。 アキラは足下をよく見ている為か、物を拾う事が多い。 しかし拾う人が時には持ち物を落とす側に回ることもある。 待ち合わせに遅れないよう急いでいたアキラは、カバンに入れたはずのスマホがするりと逸れて、落ちてしまっていた事に気がつかなかった。 |
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カナコは嬉しかった。 今日は待ちに待った、新刊の発売日。 新刊の他に、欲しかったものもいくつか買って、上機嫌のカナコ。 本屋の文字がプリントされたビニール袋の中で、本たちが、 カナコの心と同じようにるんるんと躍っている。 …るんるんと躍るほど、強くビニール袋を振り回していたのが災いした。 本が一冊、ビニール袋から飛び出して、道に転がっていく。 しまった、またやってしまった。 慌てて本の方へ向かうカナコの足が、その瞬間、 止まる。 本の横に、振動するスマホが落ちている。 カナコは本のそばにそろりそろりと近寄って、 本をビニール袋の中にしまい込んでから、ゆっくりとスマホを拾い上げる。 相変わらず、振動を繰り返すスマホ。 スマホは暗証番号を入れないと使えないよう設定されていたが、 画面上部に出ていた小さなウインドウが、振動の理由を手短に伝えていた。 「〇月×日 ◇◇時 交番」 スケジュールアプリが起動したようだ。 〇月×日◇◇時とは、まさに今の時間。 …このスマホの持ち主は、交番に用事があったのだろうか? 今頃このスマホの持ち主は、 スマホを落とした事に気付いて慌てているに違いない… |
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幸いにも交番は程なく見つかった。 犬頭の青年を二人が囲む、そんな光景がカナコの目に映る。 「だぁい丈夫だって。おまえなら見つけられる。 そんなにしょげてたら、自慢の鼻も鈍くなるぞ」 隣にいるのは友人なのだろう、 尻尾垂れ下がり肩落とす青年を、彼なりの方法で思いやる。 調子を合わせるように、交番から折り目正しい制服姿が現れた。 「断言すべき立場にない身ですが、本官も同じ意見であります。 なに、普段から善行を重ねているのです。きっと無事に戻る事でしょう」 きっとあの青年が落とし主だ! 持ち前のそそっかしさで駆け寄りスマホを差しだすカナコ。 青年は萎びた耳を喜びでピンと立てた。 お礼を述べようと顔を上げるも、その口が驚愕のあまり大きく開けられる。 「あなた、その眼鏡は……!?」 |
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「「 黙 る と 死 ぬ メ ガ ネ ! ? 」」 そう...、あの伝説の黙ると死ぬメガネだったのだ。 |
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「説明しよう! 黙ると死ぬメガネとは! 文字通り黙ると呪いが発動し、かけている者が死ぬメガネの事である!! ただし心の声も喋っている事にカウントされるので、案外判定は緩いぞ!」 説明するだけして勤続28年・趣味鉄道模型の警察官、山田鉄雄は交番の奥に戻った。 |
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カナコは、自分の顔にかけられていた眼鏡を取った。 「あ、この眼鏡ですか?アンティークショップで見つけて、 カワイーって思ってつい買っちゃったものなんですけど」 「いや、でも、それは確かに」 「『伝説の黙ると死ぬメガネ』ですか?あはは、そんなバカな。 私、今までずっと使ってますけど、そんな事ないですって。 試してみて下さい、ほら」 カナコはそう言って、驚きの顔をしたままの犬頭の青年にその眼鏡を… |
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その時子供たちの声が聞こえてきた...。 子供A「この"黙ると死ぬメガネ"って人気すぎて絶版寸前なんだぜ!!」 子供B「転売ヤーが買い占めてアンティークショップ等に売りさばいてるんだよな」 子供C「それで俺買えなかったんだよ...」 子供D「色んな種類や声優さんのバージョンがあって選び放題なのよね」 子供B「電源が切れると喋らなくなるからまさに"黙ると死ぬメガネ"ってわけね」 子供ACD「だよね!!」 子供A「中にはメガネをかけている状態で黙ると死ぬメガネがあるとか...」 子供BCD「え」 |
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(へえ、そんな眼鏡があるんだ) アキラは子供たちの噂話を聞きながら、交番に入っていく。 犬頭の青年にカナコが眼鏡をかけようとしていた。 「あ!」 アキラの大声にカナコの手が止まる。 交番にいる者全員がアキラのほうを見た。 アキラは手に持つ眼鏡を持ち上げた。 「これ、同じ眼鏡ですよね?」 犬頭の青年が交互に2つの眼鏡を見る。 「ほ、ホントだ。じゃあ、僕が落したのは、そちらですっ」 犬頭の青年がアキラの眼鏡に手を伸ばす。 「では、確かにあなたの物だと証明してください」 お巡りさんは(簡単でしょ)と言わんばかりに青年にニコニコと笑いかける。 「え? じゃあ、落したの眼鏡だったんですかあ? 私、スマホだと思って~」 カナコが拾ったスマホをみなに示す。 「あ、それは僕のです」 アキラが所有権を主張した。 「では、確かにあなたの物だと証明してください」 アキラはスマホを受け取って、暗証番号を打ち込み起動してみせた。 「はい、確かに。ちょっと書類を書いてもらいますね。では、拾ったお嬢さん。持主が見つかっているので簡単でいいですから、拾ったときの状況を書類に書いてくださいね。あ、アキラさん?」 アキラに作成させた書類を見ながら、お巡りさんが話を進める。 「はい?」 「お礼は1割から2割が相場ですから」 「あ、はい。じゃあ、スマホの代金の1割ということで……。5千円でいかがでしょう?」 「ええ、ちょっと届けただけでそんなにもらえませんよー」 アキラとカナコがにこやかに交渉をしている横で、犬頭の青年は眼鏡を片手に立ち尽くしている。 「あの?」 気がついて、お巡りさんが声をかけた。 「ちょっと眼鏡をかけて、度数が合ってるかどうかを確認させてもらえば、持主であることの証明は出来ますから。ね、ちょっとかけてみるだけで大丈夫ですよ」 犬頭の青年の手がブルブルと震え始めた。 |
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(じょ、じょじょじょ冗談じゃない。もしその眼鏡が本当に「黙ると死ぬ眼鏡」なのだとしたら、眼鏡かけている間は常に何か考えるか喋るかしなきゃいけなくなるんじゃないか。そんな状態で帰れるはずもない!) 青年は目を回し始めていた。 本当に都市伝説なのか?事実なのか? そんな被験者になるなんてまっぴらごめんだ。 「あー、あー、その…実は僕、裸眼でも視力0.5はあるんですよ」 咄嗟の言い訳だ。本当は0.3にも満たない。目の前はぼやけている。 「0.5って、十分視力低いじゃないですか。 とりあえずかけて頂いて、度数が合うかわかればそれでいいんです。 丁度ここには、視力検査用のシートもありますからね」 警官が親指で背後を指せば、そこにはリングが大量に並ぶシートが存在した。 (どうする!?確かに落としたのはこの眼鏡だが…どうしてもかけなければいけないのか!? 何か…この窮地を乗り切る方法は…!) |
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その時だった。 少年「危ない...うわっ!!」 \ドンッ!!/ 向こうから走ってきた少年がぶつかってきた。 |
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「うわああああ!」 少年の体当たりにより、青年はよろけ……。 眼鏡が……。 眼鏡が青年の耳にかかった。 とたんに、青年の犬頭が、狼頭に変身した。 「手に入れた……。最強の身体を手に入れたぞ!」 「「「「誰?」」」」」 思わず、全員が突っ込む。 |
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狼頭――もとい、犬頭の青年が喋っているのかと思いきや、 何故か彼のかけている眼鏡からも同時に声がしている。 「まさにこの身体こそ、私が望んでいた身体…ッ!! やっと見つけたぞ!!お前が!!お前こそが私の 《適合者》 !! グハハハハハッ!!!」 そう言って笑う狼頭の眼鏡から、闇のオーラが… まるで黒煙のように噴き出し始める!! |
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「あのー、スマホの持ち主も見つかったし私帰ってもいいですか? 早く新刊読みたくて~」 カナコはマイペースだった。 |
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「いやいやいや! いまボヤが発生しているというのに帰るのは危険だからね!」 帰ろうとするカナコをおまわりさんが止める。 現在青年は入り口に立っている為、帰ろうとすればどうしても青年にぶつかってしまうのだ。 「君達が何を言ってるのか全くわからないけれど市民を助けるのが警官の仕事! 消火は専門外だがこのまま見過ごすわけにはいかない!」 おまわりさんは交番に備え付けてあった消火器を持ってきてノズルを狼頭の青年に向けレバーを握った。 |
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いきおいよく吹き出される消火剤が青年を包み込む。 あろうことか。 黒煙は消火剤を受け止め、氷に変える。 氷がぱらぱらと青年の身体から落ちていく。 心なしか、狼頭の顔はあごがだらんと垂れ下がり(あきれました)と言っているようだ。 何分かのち、ようやくあごを閉じてしゃべりだした。 「もう、数えることもできないほど前から、何度も黒煙を噴いて登場しているが……。 火事と断じられたのは初めてだ……。 怒るべきか? 笑うべきか? 否、貴様の度胸を買うべきだろう……」 お巡りさんに向かって、狼頭が牙を剥く。 「何に喧嘩を売ったのか、思い知るがいい!」 |
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「これは!! 黙ると死ぬメガネ・†フルムーン†フレーム!」 山田鉄雄は、いつの間にか青年の後ろを取り検分を済ませていた。 「「知っていたのか鉄雄さん!?」」 「もちろんさ!! 文字通り満月の日の人狼のように気が大きくなる優れものだ! 獣だけど気の小さい、あの青年のような性格には良く効くぞ!!」 ぬるり。 そこまでまくし立てると、音もなく青年の脇をすり抜け交番内へ。 消火器を持つ新人お巡りさんの海原大地、 そして帰りあぐねる市民たちへ耳打ちする。 (色々と多機能な代わりに、電池の持ちも悪いんだ。 ちょっと付き合ってあげなさい。敬意をもって、褒め殺しにするんだよ) 言うだけ言った紅葉狩り歴14年・名月ハンターの異名を持つ警察官、 山田鉄雄は給湯室へお茶くみの続きに戻った。 |
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子供たち「すげぇ...」
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(なんだろう、よくは分からないけどとりあえず褒めておけばいいのかな? そういえば新刊で似たような描写あったかな~) 「わーすごいです狼さん! 狼さんだったら視力検査もきっとすごいんですよね!!」 新刊の妄想を進めつつ、視力検査シートを指さして誉めつつ煽るカナコ。 狼は嗅覚だけでなく視力にも優れているはずなのだ。 「これ、見えま―――」 2.0の左欠けリングを指さしながらこれ見えますか、と言おうとしたが――― 「皆様!市議・武者小路義豊を、何卒!よろしくお願い申し上げます!」 大音量を垂れ流す選挙カーが交番の目の前を通り、阻まれた。 |
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アキラは言った。 「…うるさいなぁ。カナコさんがなんて言ったか、聞こえなかったじゃないか」 「フハハハハハハハ今のが聞こえなかっただと?! 軟弱な人間どもが!! 『これが見えますか』とヤツは言ったのだ!! その2.0のランドルト環ッ!!!答えは左だ!!!」 右手の人差し指で視力検査シートをビシッと指しながら答える狼頭の青年。 「へ、へー。狼さんは視力だけじゃなくて聴力もすごいんですねー」 その迫力に、新人警察官の海原は若干引いていた。 |
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「わあ、狼さんすごいです~!」 「フハハハハハハ、いくらでも褒め称えるがいい!!」 拍手するカナコ、鼻高々な狼頭の青年。 二人は置いておいて、海原は自分の仕事をすることにした。 「まあ聴力はさておき、視力2.0で度数は合っているようなので、あのメガネが落とした物で間違いないようですね。ではアキラさん、拾ったときの状況を書類に記入をお願いします。いやあ、すぐ見つかって良かった良かった」 海原は先ほどアキラとカナコが記入したのと同じ書類を取り出す。 書類を受け取りながら、疑問に思ったアキラは狼頭の青年の友人にこっそり問いかけた。 「あのメガネを使っているということは、普段からあのテンションなんですか?」 |
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いまは狼頭となってしまった青年の友人は、ふるふると首を横に振った。 「ちがう、アイツはちょっと気の弱いとこもあるけど、優しい奴で… あんな褒めらて有頂天になるような奴じゃないよ。 あのメガネはそっくりだけど、 落としたのは 別のやつだ 」 友人は項垂れる。 「しかもアイツ、本当は裸眼じゃ歩けないぐらい目が悪いんだ。 今日だって、この交番には俺が連れてきてさ。 それがまさか・・・こんなことになるなんてな。 もう、こうなったらアイツの本当の眼鏡、俺が探しに行くか・・・」 |
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狼頭の青年は静かになった。 青年の友人が駆け寄る。 「どうした? 大丈夫か? まさか……」 狼頭の青年は頭を上げた。その目には涙が浮かんでいる。 「すっごく気分が悪いんだ。どうしたんだろう?」 青年の友人はアキラと目を合わせた。 2人でこそこそと内緒話をする。 「も、元に戻ってます」 「電池切れじゃないですか? あんまりもたないらしいですし」 「じゃあ、黙っても死なないんでしょうか」 「そ、それはどうだか……」 2人はじとっと狼頭の青年を見つめるのだった。 |
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そうしている間に狼頭の青年は元の犬頭に戻った。 彼は確かに気分が悪い様子で、 交番の椅子に座ると、涙を浮かべたまま黙り込んでしまった。 ……そのまま時が経つ事、数十秒。 彼は死なない。 山田鉄雄は交番のデスクで煎餅を食べながら目を光らせる。 「…電池切れのようだね。 気分が悪いのは†フルムーン†フレームの効果に乗せられて、 派手に騒ぎ立てたせいじゃないかな。 少し休めば体調も良くなるよ。 …それにしても…」 山田は煎餅を茶で流し込みながら、 「へえ、そうなんだ。 都市伝説だと思っていたけど、 もしかしたら本当の話だったのかもしれないねえ…」 「都市伝説?」 「お巡りさん、何かご存知なんですか?」 アキラと狼頭の青年の友人は、揃って山田に問いかける。 山田は煎餅を咀嚼しながら答えた。 「黙ると死ぬメガネの、『黙ると死ぬ』という部分についてだよ。 そのメガネをかけた人物が死ぬためには、 『黙る』という事の他に、もうひとつ条件が必要という話さ」 「条件?」 「君たち、黙るの『黙』の漢字を分解してごらん」 「ぶ、分解??ですか???」 「『黒い犬』と書けるだろう?」 息を飲む周囲をよそに、山田は続ける。 「つまり『黒い毛並みを持った犬』が『黙った』時に死ぬ… と、そういう話だよ…」 |
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遠くから双眼鏡で見つめる者がいた... 謎の博士「ほほう、よく気付いたな...さて、どうなるか楽しみじゃ」 謎の博士「わしが既存品の【光る!喋る!黙ると死ぬメガネ】を改造した真の【黙ると死ぬメガネ】...。」 謎の博士「その末路はわしにもわからん...黒い犬に噛まれた恨みをここで晴らす時じゃああああ!!」 そう、謎の博士こと【クローイヌ=キライ博士】は、黒い犬に噛まれた事がトラウマになっているのだ!! 少女「おかーさん...あのおじちゃん何してるの?」 少女の母「しーっ!見てはいけません!」 |
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武者小路義豊は焦っていた。 全てはあの眼鏡に関わってからだ。 選挙演説の切れが冴えないのも、市民の褒め称える声がないのも。 「……フハ。議場の狼として鳴らした我も、軟弱になったものよ」 『スーツを着た黒い犬』 対立派閥から貼られたレッテルも市庁舎で定着しつつある。 “黙って椅子を尻で磨くのがお似合いだ”と武者小路は後ろ指を差されていた。 怒るべきか? 笑うべきか? 「否、自身の迂闊さを悔やむべきだろう……」 何時の事だったか。 イメージ戦略の一環で“光る!喋る!メガネ”へ声を吹き込んだ。 軽い気持ちで。言ったことだけ広まるだろうと。 出来上がった初期ロットは、よく出来すぎた代物だった。 装着者の体を借り、武者小路の性格を疑似的に再現できるほどに。 我の秘密まで暴くつもりか! そう、少しだけ。お話し合いをした。名前を変えて余計な機能を省くよう。 開発を主導した者へ然るべき処分も与えるよう、念入りに。 既に出回った分は人を使い転売ヤーを装わせ回収した。 だが人の口に戸は立てられぬ。 代議士への野心は一旦収めねば今の地位も危ない。 《国政への参与》 を成すまでは、退いてなるものか……っ! 「皆様!市議・武者小路義豊を―― |
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クローイヌ=キライ「しめた!!見つけたぞ武者小路義豊!!」 「まんまと作戦に引っかかったなっ!!」 「そのメガネは集めれば集まるほど効果が現実となる!!」 「そう...世界中の黒い犬が滅ぶのが早まるのだッッ!!」 |
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「…よろしくお願い申し上げます!」 一瞬戸惑いながらも常套句を言い切った後、謎の男が叫んだ方へ向き直る義豊。 (ん?あの博士は…“光る!喋る!メガネ”開発に携わった者か?) しかし博士の風貌を見て否定に変わる。 出来はよかった眼鏡だ、あそこまで無能そうな者には思えない。 (しかし少しでも疑わしきは…) 一度車の中へ引っ込むと、同乗していた部下に変な博士の写真を撮るよう指示。 次いで、携帯電話で連絡を取った。 「私だ。眼鏡の件だが、開発者が逃亡したそうだな? 丁度、それと思しき者が異議を唱えてきたようでな、政の犬を滅ぼす、などとほざいている。君たちもそうされては困るだろう?」 部下にいずこかへ写真を送るよう指示を出しながら、電話を続けた。 「ああ、今送った写真の男が標的だ。少々徴税頂ければそれで問題ない。 よろしく頼む、心づけは所定の銀行に…では」 電話を切り、コーヒーを飲んで一息ついた後、再び乗り出して遊説を開始した。 |
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クローイヌ=キライ「今こそ復活の時ぃぃ!!」 \ゴゴゴゴゴ/ その時、武者小路義豊以外の世界中の黒い犬達の魂が吸い取られ全ての【黙ると死ぬメガネ】が一つに...!! 「「まさかこのワシが黒い犬を操ることになるとは...」」 ソウルオブ・ブラック・ケルベロス 「復活せよ...【魂魄の黒き三頭犬】!!」 |
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…さてここで話は変わるが皆様は【黒い犬】と【そうじゃない犬】の境目はわかるだろうか? 一口に【黒い犬】といっても黒や茶が入っている俗にいう【ブラックタン】の犬だっている。 殆どの部位が黒でも足とか一部分だけ茶や白になっている犬も【黒い犬】と分類されるのだろうか? …つまり何が言いたいのかというと【黙ると死ぬメガネ】に集められた黒い犬の魂の中にそういう【黒の中に別の毛色を持つ犬】の魂も混ざってしまったのだ。 クローイヌ=キライ「ふふふ…来たぞ来たぞ……んん? な、なんじゃこれはぁ!?」 本来ならばいかにも血に飢えたような狂暴な犬が召喚されるはずだった。 …しかし 黒の中に別の毛色を持つ犬 の魂が混ざったことにより 召喚されたのは… とても大きなつぶらな瞳。 ふさふさで思わず飛び込みたくなるような黒い毛皮。 そして…ビルよりも大きい癖にプルプル震える小動物的なしぐさ………。 ……クローイヌ=キライが召喚したのはケルベロスはケルベロスでも 【チワワベースのケルベロス(ブラックタン)】だったのだ!! チワワベースのケルベロスは目を潤ませてくーん…と可愛らしい声で鳴いた。 どうやら大きさと三つの頭以外はいたって普通のチワワらしい。 チワワベースのケルベロス…略してチワべロスを目の前に 呆然と立ち尽くすクローイヌ=キライであった。 |
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子供D「ありがとうおじちゃん!!」 子供ABC「チワべロス...よろしくね!!」 クローイヌ=キライ「ぐぬぬ...」 「わ、わしの計画が...」 「おのれ武者小路義豊!!」 クローイヌ=キライ「「こ れ で 勝 っ た と 思 う な よ ー !」」 クローイヌ=キライはどこかへ去って行った... こうして壮大(?)な計画は崩れ去った... |
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チワベロスは多くの黒っぽい犬の魂が集まった集合体だが、その集合体意識はクローイヌ=キライを主人――飼い主と認識していた。 どこかへ去って行こうとするクローイヌ=キライを見て、チワベロスは哀れっぽく鳴きだした。 「「「くぅん、くぅん、くう~~~~ん」」」 しかし元々黒い犬に恨みを持っているからこんな計画を考えたクローイヌ=キライである。でかい黒いチワワに哀れを催すこともない。当然博士はその鳴き声を無視した。 チワベロスは更に鳴いた。 「「「くぅん、くぅん、くう~~~~ん」」」 いくらチワワの可愛い声でも、サイズがビル並でしかも頭が三つもあれば当然メチャクチャ五月蠅い。窓ガラスもびりびり震えている。 そしてチワベロスの鳴き声は、拡声器を通した武者小路義豊の声を容易く打ち消した。 |
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シローイヌ=スーキ「あいつは主人..のあんたが恋しいのじゃ」 クローイヌ=キライ「あんた何者じゃ!?」 シローイヌ=スーキ「こうなったら全ての白い犬も合体させちゃうぞ!」 クローイヌ=キライ「えーい!!どうにでもなれぇぇぇぇ!!」 シローイヌ=スーキ「( *˙ω˙*)و グッ!」 |
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「そこのお二方、止まりなさい!」 そこへ海原大地が駆けつけて来た。 彼の手には捜索令状がしっかり握られている。 交番で通報を受けた山田鉄雄が発行したものだ。 「先ほど巨大な犬が現れ、この付近の通行を妨害していると通報があった! なぜこのような図体と見た目が反している犬が現れたのか? 事情聴取を実施するため、お二方には任意同行をお願いしたい!」 目の前にはいかにも怪しそうな博士風の老人が二人。 この二人以外に怪しいと思える人物はいそうにない。 腰に用意した手錠にいつでも手を伸ばせるように、構える。 |
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いつの間にかシローイヌが消えていた... クローイヌ「あやつ...どこに!?」 「わ、わしはただ...」 「これで勝ったと思うなよー!」 クローイヌ=キライは連行されて行った... |
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海原大地によってクローイヌ博士が連行された後。 交通妨害があったという報が子供たちの親御に伝わったらしく、子供たちの親族が現場に迎えに来ていた。 子供A「ところで、連行されていったおじちゃんが言ってたんだけど、武者小路義豊って誰?」 子供Aの母「あぁ、市議選に立候補している市庁の黒犬さんね」 子供Bの母「あれでも最初の当選前は傑物だったのよ?議場の狼として鳴らして、一時期は国会議員の公認を得られるかもって噂になってたわねぇ」 子供B「なんで狼が犬になっちゃったの?」 子供Cの父「いつからかご機嫌取りが増えたからでしょうね。これは新聞で読んだんですが、PR向けのグッズに声を吹き込んでいたそうです」 子供Dの祖母「PR向けのグッズ…何じゃったかのう?」 子供Cの父「“光る!喋る!メガネ”ですよ。あの後不具合が発覚して即刻回収されましたが」 子供Aの母「あたしは黒犬さんはもういいかなぁ、それより新人の志賀春樹さんを推したいわね」 チワベロスがいる場所の近くは、井戸端会議の現場になっていた。 |
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――行ったか。 過程は違えど、依頼人の指示通りの結果じゃ。 チワベロスが見えるほど近くの物陰。 現場にいたもう一人の白衣の老人が報告を送り終えたところだった。 「一にして全なる【黙ると死ぬメガネ】には、 迷える魂を集めて召喚を行う機能がある……と」 それを“拾得”したことは告げなかった。 シローイヌ=スーキが受けた指示は、Dr.キライが署へ連行される前に 【黙ると死ぬメガネ】の隠された機能を探ること。 この情報をもって、議場の黒犬を更なる閑職へ追い遣るために。 そう、武者小路義豊の部下も反対派閥の手先となっていたのだ。 組織の力学など分からぬスーキでも、街宣車を一目見て改めて確信した。 志賀春樹は新人特有のクリーンなイメージを持ち、なおかつ操りやすい。 これ以上あがくようなら、武者小路の小僧には“自主的に”潰れてもらう。 そう言わんばかりに 据わった目と、目と、目が車内から武者小路を執拗に刺し続けている。 くわばら。こんな場所に長々といられないわい。 シローイヌ=スーキは暗がりで自らの顔を剥いだ。 わし……いや。 俺は犬頭の青年の友人、シローイヌ=スーキ。 名前も知らない、白犬頭の青年の友人。 もうすぐ彼も具合が良くなる頃かの。 早く交番へ戻ら……戻ってやらねぇとな。 そして、この眼鏡で彼を…… 真の【黙ると死ぬメガネ】を手にした白衣の若人。 どのような思いが巡ったのか。その眼には妖しい光が湛えられていた。 |
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(一方チワべロスはというと通りすがりのギャル達に愛でられていた) ギャルA「なにこれーめっちゃかわいいーでっかくてヤバいー!」 ギャルB「この子本物とかマジでー? すっげー! チョーやべー!」 ギャルC「この子の写真撮ってみたよーこれSNSにうpしたらバズるんじゃね?」 ギャルA「うわー、この子のデカさがよくわかってスゲーやべーんですけどー! これぜってーバズるの確定だってー!」 ギャルB「コイツ何喰うかなー? 犬用のササミジャーキーあるけど食うー?」 ギャルC「なんでそんなんもってるのー? うけるー!」 (賑やかなギャルたちにチワべロスは不思議そうに首をかしげるが、犬用ササミジャーキーを差し出されるとまぁいっかとササミジャーキーを食べようとした) |
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「……鉄雄さんの話を聞いている間に大変なことになってるね」 アキラ達はギャル達より少し離れたところからチワベロスを見物していた。 チワベロスの出現により交通整理の為本部から応援を要請したり、クローイヌ博士の事情聴取をしたりと忙しくなって山田も海原も落とし物どころではなくなり、交番から帰されたからである。 解散してもよかったのだがそこは若者、騒ぎになっていれば見に行くしかない。そういうわけで三人は揃って行動していた。 カナコはほああ、とチワベロスを見上げた。 「『黒い犬が黙ると死ぬメガネ』の話を聞いてる時に大きい黒チワワが現れるなんて、すごい偶然ですねえ。それにしても大きい~……」 「ですね、メガネをかけてなくてもチワワだって分かります」 結局†フルムーン†フレームは本人のメガネではなかった為、裸眼で行動している犬頭の青年である。青年はガッカリした声を出した。 「……猫の方が良かったなあ」 「猫派なんですか? えーと……」 「あ、僕の名前はミケールです。顔が犬だからよく勘違いされるんですけど、僕は猫の方が好きなんです」 「意外ですねー、私はチワワ好きですよ~……あれ、そういえばミケールさんお友達は?」 「あれ? どこに行ったんだろう??」 三人がきょろきょろしていると、道の向こうから犬頭の青年の友人が手を振って走ってきた。ミケールが聞く。 「どこ行ってたの?」 「いや、あっちにメガネが落ちてるのが見えてさ。これお前のじゃないか?」 そう言って犬頭の青年の友人、シローイヌ=スーキはメガネを差し出した。 |
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「ありがとう!」 何の疑いもなく、友人から眼鏡を受け取って、ミケールは自ら装着した。 試すように周りを見回す。 「間違いないよ。これでよく見える。あ、カナコさん、こんにちは」 見えるようになって改めて認識したのか、ミケールはぺこりと頭を下げた。 「こんにちはあ! 良かったですねっ!」 くったくなく応じるカナコ。 「えっと、アキラさんですね。こんにちは」 「……こ、こんにちは……」 アキラはさかんに首をかしげている。 おかしい。 さっきは眼鏡をかけるのを、ものすごく嫌がっていたはずだ。 いぶかしく思っている間に、ミケールはため息をついた。 「やっぱり、さっきの眼鏡とは違うんですね。まったく高揚感が湧きません。ちょっと残念かな」 「いや、お前はそのままのほうがいいよ。俺は好きだよ」 なるほど。アキラとカナコは納得した。 友人の目を信用しているのだ。 今までずっとかけてきた眼鏡だと確信していれば、問題はないわけだ。 ミケールと友人さんの厚い友情に乾杯。 |
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この現場、交通整理が入ったことでチワベロスは道から逸れ、 通行が確保されている。 歩道はもちろん、車道も然り。 それは即ち選挙カーも通行可能になったということで――― 「皆様!現職市議・武者小路義豊の再選を何卒!よろしくお願い申し上げます!!」 遊説を垂れ流す市議の車が、チワベロスのいる現場を横切った。 |
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「停めてくれ」 気持ちよさそうに寝そべるチワベロスを尻目に、 市議は街頭演説の予定地へ到着した。 ウグイス嬢へ労いの言葉を掛け、 “地上戦”に適した5ナンバー車の後部デッキに登ると、 市内各地の駅前で、広場で、工場の門前で述べた挨拶から語りだす。 「市民のみなさん、こんばんは。 私は現職市議の武者小路義豊であります。 本日は、暗くなる中お集りいただきまして誠にありがとうございます」 今回の選挙にかける意気込みを訴えかける。目前の年齢層を意識し、 提起する問題を自らの足と論考で掴み取ったものから選び問いかけた。 よどみない言葉運びは応援弁士としてなら十分魅力的にも見える。 だが武者小路自身に対する負のイメージを打破するまでには至らない。 帰宅時間で人通りの多い中、聞き入る者は皆無だった。 ただ一頭を除いて。 ブラックタンの毛皮に、とても大きなつぶらな瞳。 三つある頭のうち二つが寝入る中、ひとつだけ釣り目がちな眼を細めて、 ぢっとこちらを見据えている。どこか懐かしむ様子で口を歪めて……? ジャーキーの匂いがするな。 楢木氏の作る上等な肉質を持つ品であるか。 義豊は、こちらから目を離さないチワベロスの頭に、 市内でも力を持つ者の顔を胸中で無理やり当てはめた。 聞いてくれるならと、犬にも縋る思いで、腐らず、逸らず演説を続ける。 |
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起きているチワベロスの頭は武者小路義豊を見つめていた。 ――どうしてだろう。なんだかこの人のことがとっても気になる。 それはクローイヌ=キライが武者小路義豊をターゲットとしていたことをチワベロスが本能的に覚えているからなのだが、そのことを本犬は知らない。 理由が分からないなりに、チワベロスは考えた。 ――美味しい物を持ってるのかな? でも食べ物のにおいはしないな。 ――前に遊んだことがあるのかな? でも嗅いだことのないにおいだぞ。 チワベロスはくんくんとにおいを嗅いだ。 ――色んなにおいがするなあ。あ、ご主人様のにおいもする。 ――そうだ、ご主人様を探さなくっちゃ。においをたどれば見つかるよね。 ――この人のことはどうしよう? ――うーん、よく分からないけど、この人をご主人様のところに持って行こう! 起き上がったチワベロスはおもむろに武者小路義豊を咥えると、ちょこちょこと――サイズの所為でズシンズシンと音がしているが、動きだけはチワワのままである――歩き出した。 |
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「!?」 突然噛みついてきたチワベロスの前に、ただの市議である義豊は抵抗する術など持ち合わせていない。 「くっ、あくまでも私の邪魔をする気か…!だがそうはいかん!」 秘書と思しき者から、選挙カーから垂らしていた垂れ幕を受け取り、掲げる。 『武者小路よしとよ』と書かれた、選挙用の垂れ幕だ。 チワベロスに咥えられている中でも、垂れ幕だけは手から離さず。 「市議・武者小路義豊!再選の暁には思い切った行政と財政の改革を施す所存であります!!」 とんでもない体勢なのだが、それでも演説を続ける義豊。 その政庁への執念だけは、間違いなく一流であろう… |
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井戸端会議をしていた子供達の母親も異変に気づいた。 「あら、武者小路さん!? あんなところで垂れ幕持ってるわ!」 「これは目立つわねえ」 「じゃあこの大きいチワワは黒犬さんが連れてきてたのね、アピールの為に」 「黒犬さんだから黒いチワワなのねえ」 「やるわね、武者小路さん。これでかなり票が集められるんじゃないかしら」 その光景をもちろんギャル達も見ていた。 「やば、なんかおっさんがくわえられてるんですけどw」 「撮ろ撮ろ、これもバズり確定でしょー!!」 「てかあれなんて読むの?」 「たけ……じゃなくて……むしゃ……むしゃころ??」 「むしゃころwwwwマジうけるwwww」 こうしてギャル達が撮った写真は「むしゃころとかいうおっさんがチワベロスにくわえられてるんだけど!!」というコメントと共にSNSにアップロードされ、あっという間に拡散された。 拡散された画像を見た若年層を中心に選挙に興味のなかったネットユーザーの間で、急速に武者小路義豊の知名度が上がる。SNSで様々なコメントが飛び交った。 『むしゃころさん面白いじゃん、次この人に投票するわw』 『選挙行ったことなかったけど行ってみようかな』 『頑張れむしゃころ、負けるなむしゃころ!』 そう、そもそも選挙に興味のない若者は武者小路の評判など知らず、「なんか面白いおっさん」というだけで投票する理由になるのだ。 この影響はすさまじく、志賀春樹派閥も到底捨て置くことは出来ない事態となっていた。 「やばいな……このままだと武者小路が当選するぞ」 |